ABS樹脂サイン|輝くメッキを施す技術
街中や建物内においてもメッキ加工された樹脂製品を目にしない日はほぼなく、その多くの素材として使用されているのがABS樹脂です。
今回はサイン業界においても多くの需要がある、ABS樹脂やメッキ加工の技術についてお話しします。
ABS樹脂の躍進
3種類の樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)を合成して作られるABS樹脂は、プラスチックの一種でありながら強度が高く耐衝撃性に優れた素材です。
20世紀半ばにアメリカで発祥したABS樹脂は、自動車産業などの躍進とともにメッキ加工の技術と相まり多くの分野で世界中に普及しました。
熱に強く欠けなどの破損が少ないABS樹脂は、NCルーターなど刃が高速回転する加工機械の使用にも適しており、繊細で立体的な仕上りのサインを製作することが可能です。
またメッキ加工を施すことで美しい成形が際立ち、金属と比較してローコストである点や、その軽さから得られる施工性の良さ・安全性など多くの利点が挙げられます。
電気を通さない樹脂に施すメッキ技術
非金属素材に施すメッキ方法は「乾式メッキ」と「湿式メッキ」の2種類があり、現在樹脂メッキ製品の多くには湿式メッキに属する“無電解メッキ”と“電気メッキ”という2つの技術が併用して使われています。
乾式メッキ
乾式メッキにはいくつかの種類がありますが、昭和の時代にはすでにABS樹脂にメッキを施した自動車のエンブレムなどが、“真空蒸着”という技術により大量生産されていました。
真空蒸着
真空蒸着は下地材を塗布後、真空のブース内でアルミニウムなどの金属を気化させ、製品にメッキとして蒸着させる工法です。
比較的低コストで薄い皮膜を形成できるため、現在はメガネやカメラのレンズやディスプレイパネル、スナック菓子の包装材などの製造に使用されています。
湿式メッキ
現在は自動車部品などをはじめ高い耐久性、耐食性、装飾性などを必要とする多くの製品には、湿式メッキである“電気メッキ”が使用されています。
化学メッキ(無電解メッキ)
多くの利点があるABS樹脂ですが、電気を通さない絶縁体である樹脂にそのまま電気メッキを施すことはできません。
そこでまず行うのがABS樹脂の表面に触媒を付着させ、漬けこむ溶液との化学反応を利用して樹脂を金属の皮膜で覆う、電気を使わない化学メッキ(無電解メッキ)という技術です。
無電解メッキは電気メッキの下地としても使われていますが、高い精度が必要な電子機器など様々な工業製品の部品加工にも活用されています。
電気メッキ(電解メッキ)
表面に金属皮膜が生成されたABS樹脂には電気を流すことができるため、そこでやっと電気メッキを施すことが可能になります。
電気メッキは水溶液で満たしたメッキ槽に電気を流し、溶け出した金属イオンが製品の表面で電子と結びつきメッキ加工する技術です。
金や銀、銅、錫やニッケルなどのメッキ方法として利用され、比較的低コストで連続的に加工することができるという特徴があります。
ABS樹脂に電気メッキを施す工程
ABS樹脂に電気メッキを施すには、無電解メッキと電気メッキ両方の作業が必要なため、脱脂から始まり各作業間の洗浄などを入れると実に20を軽く越える工程数になります。
下地の工程
エッチング
エッチングはサンドペーパーで擦る塗装の目荒らしと同様に、素材であるABS樹脂とメッキを密着させる重要な工程です。
一般的にはクロム酸の混合液を使いABS樹脂の成分であるブタジエン酸化・溶解させ、樹脂の表面に細かな凹凸を設けることによりメッキ皮膜との親和性を高めます。
キャタリスト・アクセレーター
次はメッキ加工に必要なコロイド触媒をエッチングによって改良されたABS樹脂の表面に吸着させ活性化させる、キャタリスト・アクセレーターの工程です。
キャタリストは化学反応を促進する物質を指し、触媒として機能しない錫(Sn)を除去しパラジウム(Pd)を活性化させ触媒として機能させます。
無電解メッキ
樹脂に吸着させたパラジウム触媒を核とした無電解メッキ液との化学反応により、樹脂の表面にニッケルを固化させます。
この樹脂に被覆されたニッケルが導電性をもたらすことにより、電気メッキを施すことが可能となるのです。
電気メッキの工程
ニッケルストライク
電気メッキの最初の工程は、高い電流で先ほどの無電解メッキが焼けたり剥がれたりしないよう弱い電流で薄くメッキを施すニッケルストライクです。
この工程は素材の表面を整え様々な金属メッキとの密着を高める効果もあります。
下地の銅メッキ
樹脂と金属の熱膨張応力を緩和し、ニッケルストライクと同様に素材の表面を平滑にする目的と、次なるメッキ工程との密着性を向上する効果を生む工程です。
耐食性が非常に高く比較的安価な銅は下地に使用されることが多く、ここまでくると素材は光沢のある美しい鏡面に近づきます。
このストライクメッキとも呼ばれる下地メッキの後は、更なるメッキを重ねることでニッケルメッキやクロムメッキなど好みの仕上げに近づけていくことになります。
あとがき
太古の昔から存在したとされるメッキ技術ですが、「メッキが剥がれる」などの誤魔化しを揶揄する表現から考察すると、当初のメッキは剥がれやすく、本物に比べると「仮初めのお化粧程度」といった印象であったのかも知れません。
現代の進化したメッキ技術を様々な側面から鑑みると、ともすればすでに本物を凌駕してるとさえ言えるのではないでしょうか。
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